愛された少年

 

神様に愛されました

深く深く、愛されているそうです

でも、神さまの愛なんていりませんでした

 

「じゃあ、少年は誰の愛が欲しかったのかな?」

 

男は。

長椅子に自堕落に寝そべっていた青年は、愉しげにクツクツと咽喉を震わせた。

肌蹴た白いシャツから覗く黒い肌が、いやに倒錯的だった。

 

「決まっています。僕はマナにさえ愛されればよかった」

 

少年は、解かれてしまったリボンタイを結びなおす。

 

黒い青年との情事はいつも唐突で、そして心地良い。

 

アレンは大人の男の手が好きだ。

最愛の義父の手を思い出す。

だから、青年の黒い手で肌をくまなく撫でられるのが好きだ。

 

ああ

マナ、マナ、マナ、マナ

 

マナ

 

僕の愛する人

 

僕だけの、愛する人

 

「少年はホントにファザコンだね」

 

呆れた様子の青年は、それでもやはり笑っている。

 

「ええ。ファザコンなんです。マナさえいれば、僕は本当は世界がどうなったって構わないんですよ」

 

もう一度伯爵が(目の前の青年でもいいが)、マナを甦らせてくれるというのなら、アレンは喜んで世界を生贄に捧げるだろう。

 

きゅっとリボンを締めて、鏡で服装の乱れがないかチェックして、アレンは満足げに頷いた。

 

「さぁティキ。僕を戻してください」

 

「もう少しいたら?少年、最近休み無しだろ」

 

相変わらずこちらの行動は筒抜けらしい。

 

突然出現した扉の中へ引きずり込まれて訪れたのはいつもの逢引の場所。

 

ヴィクトリア調の豪華な家具に囲まれた部屋で、敵方の青年と暫しの房事にふける。

 

連続する戦いに体は疲れていたが、彼とのセックスを拒もうとは思わなかった。

 

手酷く抱かれる事も有れば、どこまでも穏かに抱かれる事もある。

 

今日は後者で、青年は疲労する身体をいたわってくれたようだ。

 

ああ、その大きく暖かい手で愛撫される事の、なんて気持ちよかったこと!

 

身体がぐずぐずに熔けて、ただただその波にたゆたった。

 

「大丈夫ですよ。じゅうぶん休みましたから」

 

「そう?でも、そう言われると、なんか複雑な感じがするね」

 

がんばったんだけど

 

「嘘ばっかり。随分優しくしたくせに」

 

慰撫するように愛されて、とても幸福。

 

マナの腕の中にいたように。

 

「ちゃんと、とっても気持ちよかったですよ?」

 

横たわる青年に口接けて、アレンはドアの取っ手に手を掛けた。

 

「ならいいけどな。またな、アレン」

 

そのまま見送る青年は、このまま情事の気だるいまどろみに身を任せてしまうつもりのようだ。

 

その誘惑は確かにアレンにもあったが、これ以上このぬるま湯に浸かるのはいささか怠けすぎと言う物だ。

 

「ええ、ティキ・ミック卿。また今度」

 

そうして、アレンは開けた扉の向こう。

 

広がる闇に呑みこまれた。